わあ、すごいなあ……。

ピンク色のトンネルみたい！

……！　これ、サルスベリの花かな。

……ええ、サルスベリですね。こういった山野草にお詳しいのですか？

あ、えっと……詳しいってほどじゃないんですけど、植物図鑑を見るのが好きだったので。

でも、図鑑の写真で見るよりもずっと綺麗です。こんなふうに、アーチみたいになって……

人の手が入ったわけでもないだろうに、自然の妙というやつかな。

私も写真撮っとこうっと。

（……あっ！？）

……？

（これ、リンドウだ……！）

（山で自生してるのって、初めて見た）

（こんなに活き活きして感じるものなんだ）

……王子さん。そろそろ皆さん先に進まれるようです。

行こう、のの。……何か見てたのかい？

うん、そこにリンドウが咲いてて。

リンドウ？　ああ、なるほど……。写真撮っとく？　皆に遅れないように急がなきゃだけど。

……ううん、いいんだ。

こうして山登りに来たら、また咲いてるところを見られると思うから。

……そっか。そうだね。

ふふっ、リンドウはののにとって特別な花だからね。

…………。

うん。すみません相馬さん、足を止めちゃって。

いえ……それでは、行きましょう。

そういえば乃々花から聞いたんですけど、この前相馬さんとご友人が、具合を悪くしてた乃々花を助けてくださったそうで……ありがとうございます。

ああ……いえ、自宅が近かったので、少し休んで頂いただけで、大したことは何も。

後日わざわざお菓子を差し入れてくださったので、むしろこちらがお礼を言う立場ですよ。

あのお菓子、スタッフ皆で頂きました。ありがとうございました、王子さん。

いえ……！

のの、１人でお店に行ったんだ。

うん。わざわざ琴子達に付き合わせるのも悪いかと思って……。

最初はお化け屋敷に無理やり連れてこられた人みたいに怯えてたのにねえ。

そ、相馬さんの前でそれ言わないでよ～！

……うちの店へ初めていらした時ですか？

山男しかいないんじゃないかだの、リアルな動物のディスプレイが怖いだの、イエティが出そうだの。

そこまでは言ってないってば……。……相馬さんも笑わないでください！

はは……すみません。

まあ、そんな乃々花も今は山歩きを楽しんでるみたいなんで、誘った方としては嬉しいんですけど……。

でも、相馬さん達に助けてもらった時も、体力作りのために急に無理して具合悪くなったっていうのもあるみたいなので、ちょっと心配っていうか。

え……

（……あっ、そういえば……）

すみませんっ、相馬さん。あの時も私、自分の限界もわかってなくてご迷惑をおかけして……

……迷惑、ということではないのですが……。

体を鍛えよう、体力をつけようとされるのはとてもいいことだと思います。

ただ、トレーニングでの疲れが登山本番で出て、怪我にでも繋がったら本末転倒ですから。

私達ももちろん仕事として店員やガイドをしていますが、やはり登山が好きで、たくさんの人にその魅力を知って楽しんでほしいという気持ちも大きいのです。

ですから……もし無理をしてお客さまが危険な目に遭ったとしたら、ご家族やご友人など周りの方も心配されるでしょうし……

もちろん私達も悲しみ、事故を予防できなかった自分を責めるしかありません。

迷惑だなんて思いませんが、自分を大事にしてほしいとは強く思います。

何度もお伝えしていることですが、自然の中でのレジャーは、危険が隣り合わせであることを決して忘れてはならないのですから。

（……相馬さん……）

はい……。すみません、軽率なことをしてしまって。

あの、これからはちゃんと気を付けます……！

……ありがとうございます。申し訳ないです、説教のようになってしまって。

いえ、私が考えなしだっただけですから……。

琴子と真緒も、心配かけちゃってごめんね。

謝られることじゃないよ。慣れない趣味に引っ張り込んだのはこっちだし。

そうそう、アンタに何かあったら私達の責任も大きいからね。

一緒に楽しく登山したいんだから、何かあったらいつでも言ってよ。

その時は相馬さんにも、また相談させてもらっちゃうと思いますけど。

それはもちろん、大歓迎です。

……そうだ。最初に講習会へお申込み頂いた時、私の名刺をお渡ししたかと思いますが、そこに記載している番号やアドレスには、お気軽に連絡して頂いて構いませんから。

相談でも何でも、乗りますよ。

いいんですか？

ええ。他のお客さまにも、時々アドバイスさせてもらうことがありますよ。

あの山に登る時はどの登山口がいいとか、この季節ならこの装備がいいとか……

ですから、皆さんもお気軽に。

あ……ありがとうございます！

わあ、助かります。

でもウチで一番頼りないのは乃々花だから、やっぱりこの子がお世話になるだろうな～。

その時は申し訳ないですけど、よろしくお願いしますね。

ええ。

（やっぱり相馬さんって親切だな）

（でも、こう言ってもらったからって甘えてばかりじゃきっとダメだし……）

（無理ない運動ができるように、もっと気を付けて鍛えていかなくっちゃね）

面白かったね～！

うん、アクションめっちゃ格好良かった！

話の筋も王道ではあるが、王道ならではのよさがあったね。

（相馬さんが、『八卦掌』だったかな？　中国拳法をやってたってことも観にいくきっかけになったよね）

（食わず嫌いみたいな感じで終わらせずに、来てよかったな）

映画に出てきた料理も美味しそうだったし……

……ああ、思い出したらお腹減ってきちゃった。

もう昼過ぎだからね。どこかのお店に入って昼食にしようか。

……ならせっかくだし、中華料理に行かない？　少し歩いた辺りに中華街があるしさ。

うん、２人がよければそうしたいな！

私は構わないよ。

じゃあ決まりね。私、行ってみたいお店があったんだ。案内するね。

あったあった、ここだよ。

ご注文お決まりになりましたらそちらのボタンでお呼びください。ごゆっくりどうぞ～。

わー、美味しそうな香りがますます……。何食べようか迷っちゃいそう。

ちょっと待って。ええっと……

真緒、どうしたんだい？

あ、いたいた！

（……？）

…………あれ？

――えっ！！　相馬さん！？

ど、どうして相馬さんが……。こちらで働いてらっしゃるんですか？

ええ。

……というか、ここは両親の店でして。

相馬さんのご両親の！？

えっ……ふたりは知ってた？

……いや、私もびっくりしてる。だけど真緒は知ってたんだろう？

うん、この前星野さんと偶然町で会ってさ。このお店のこと聞いたんだ。

隠したりしているわけでは全くなかったのですが……

そういえば王子さん達にはお話しする機会がなかったですね。

先程も言いましたがここは両親の店で、私は時々手伝いをしているんです。

当然ショップやガイドの仕事が優先ですから、休みの日、たまにですけどね。

そ、そうだったんですか。

――すみませ～ん、追加注文いいですか。

はい、すぐ参ります。……それでは皆さん、ゆっくりされていってくださいね。

もうっ、真緒、どうして先に教えておいてくれないの。

そうだよ、驚いたなぁ。

あはは、ごめんごめん。びっくりするだろうな～と思って。

でもここのお店、相馬さんのことを抜かしても普通に評判いいからさ。きっと美味しいよ。

まあ……それはそうだと思うけど。

考えてみれば真緒がこの情報を手に入れてなかったら、ここに来られなかったわけだからね。

その点から見れば、むしろ感謝するべきかもしれない……かな。

……確かに。

（ご両親のお店で相馬さんがどんなふうに働いてるのかにも興味はあるし、）

（それに美味しそうな料理も気になるし……！）